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「教えてください、白鳥館長」
−芹沢銈介美術館館長に聞く、芹沢銈介作品の魅力とは−


5、丸紋いろは六曲屏風(1960年)


館長)この作品は芹沢銈介先生の大作ですね。最高傑作の一つだと思います。屏風のなかで面積的に一番大きいですし、それはすなわちすべての作品のなかでも最大級ということ(笑)。いろは歌(変体仮名)の一字一字と、日本の手仕事の模様を、交互に組み合わせた作品で、芹沢先生が愛惜した日本の暮らしを表現した作品です。見ていると、そのあたたかな世界観に包まれてしまうかのよう。
 
staff 栗田)数多く制作されている屏風の中でも大作なのですね。芹沢先生としても気合いの入ったものだったのでしょうか。
 
館長)そうだと思いますよ。実は、1937(昭和13)年頃に、同じ構想による「丸紋いろは八曲屏風」を作っているんですね。それを1960(昭和35)年になって、リメイクした。なんと23年後のリメイクです。リメイクというのも芹沢先生はよくやっています。準備に時間をかけるというのもありますけど、一度作ったものもずいぶん時間が経ってからリメイクする(笑)。念入りに仕上げた作品でも、ずうーっと気にしているんでしょうね(笑)。「絵本どんきほうて」なんて、ほぼ40年後にリメイクしていますからね(笑)。「執念深い」というのか(笑)。お弟子さんにもよく、「君は忘れてしまったかもしれないけど、僕はあれからずっとあのことを考えている」といって、困らせたそうですけど、その「ずっと」が本当に長かったんでしょうね(笑)。どんどん自分の作風を脱ぎ捨てて、決して後戻りしないような作家とは、まさに対極。開拓精神に富んだところもあるわけですが、同じくらい並外れて後ろ向き(笑)。バランスがとれているんだと思います。
 
栗田)リメイクというのは精神的にも大変な作業のような気がしますが。それが大作になるのだから芹沢先生は本当にすごい作家だなと思います。
 
館長)そうですね。この作品を見て驚かされるのは、まさにそのバランスです。大体、文字を47個、それに対応した模様を47個も扱っている。全部違う94個からなっているわけで、これだけの模様を大画面の中で扱うということは大変なことだと思います。でも、すごく安定している。それは、一つにはすべてを円の中に納めていること。もう一つは、文字と模様を市松状に配置していることから来ている。それでうんと安定しているわけですが、一方で変化も持たせている。ひとつの円を2重にしたり3重にしたり、4重のものある。しかもその線の太さには相当変化がある。この配置にはわざと規則性を持たせないんですね。さらに配色も複雑。でも完成作を見ると、まったく破綻がない。完全に安定していて落ち着いている。でもその落ち着きの中に、上品な華やかさやリズムがある。作品自身が笑っているような楽しさがあるんですよね。
 
栗田)丸がずらっと並んでいるとうるさく見えてしまう気がしますが、そんなことは全く感じさせない、むしろ心地よく見ていられる作品ですよね。
 
館長)そうですね。この作品なんか相当うるさくても不思議じゃないのにね。一つ一つの文字や模様の楽しさを見てもわかるように、芹沢という人は、ものすごくみずみずしい感性をもっている。でも、それを上回る理性をもつ人だと思うんですよ。どんな複雑なものでも、ガッチリ押さえ込める構成力とか、論理性を持っている。その高度なバランスの上にある人だと思わされる。この作品は、その代表例だと思います。
 
 あと、ちょっと付け加えたいのは、この作品の制作年。芹沢先生の作品の制作年って、はっきりしないものが少なくなくて、『芹沢銈介全集』をはじめ、たくさんの作品集が出ているんですが、あまり確かではないですね。それを、雑誌や展覧会写真などの資料を参考に、少しずつ直しているんですが、この作品もそうですね。『全集』には1963(昭和38)年とあるんですが、1961(昭和36)年の雑誌の記事を見ると「ざくろ」という料亭にすでに飾られている。それで1961(昭和36)年にしたんですが、でも最近、美術館の山田さんが、1960(昭和35)年に公開された成瀬巳喜男監督の映画「娘・妻・母」の中に、この作品がほんの一瞬、出てくるのを発見してびっくり。また1年、制作年が上がりました(笑)。1961(昭和36)年に亡くなった、師の柳先生が見ていたかもしれない作品ということになります。ひょっとしたら。師の存命中に仕上げた最後の大作かも。厳しさのある作品だなとも思います。
 
栗田)制作年にしても新しい発見がまだまだあるのですね。芹沢先生は知れば知るほど偉大な作家です。
 
●掲載図録『五十の作品でたどる芹沢銈介八十八年の軌跡』『芹沢銈介の作品II  屏風』

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