静岡市立芹沢げ霹術館museumshop (ミュージアムショップ)の公式オンラインショップです。
  

 

「教えてください、白鳥館長」
−芹沢銈介美術館館長に聞く、芹沢銈介作品の魅力とは−


10、芹沢先生と静岡の食


館長)前回は、昭和7年の「蔬果図」でしたが、「蔬菜図」(野菜図)はその後もつくっています。こちらはやや写実的な表現ですが、特に昭和20年代に多いように思います。これは戦後の食料難を反映しているのかなと思います。芹沢先生の自筆年譜の1946(昭和21)年に「食料探しに奔命」とあるほどで、51歳の先生が、あちこち食料を探し求めて歩いていたようですからね。でも、食料を入手してもまずスケッチ。それが終わらないとご家族が食べられなかったといいます。1949(昭和24)年ごろに始めた型染うちわには野菜の図が多いですし、あと型染カレンダーにもたくさん登場しますね。大体は8月のテーマ。芹沢先生の野菜は、どれもおいしそう(笑)。これは、本人が食べることを好きだったからじゃないかと思うんです。
 
staff栗田)スケッチが終わるまで食べられないとはなかなか酷ですね(笑)。芹沢カレンダーに出てくる野菜や果物たちは本当においしそうです。
 
白鳥)色もそうなんですよね。わあ、おいしそうと思うような色づかいがある(笑)。芹沢先生の最晩年に撮られた桜映画社の「芹沢銈介の美の世界」という映画があります(1984)。宇野重吉さんがナレーションの、素晴らしい映画で、昭和59年度芸術祭大賞をとっているんです(日本記録映画・動画の部)。自宅の庭でのにぎやかな会食の場面があるんですが、その時の芹沢先生の食べっぷりがなんともおいしそう。「モグモグ」のストロークが大きいんです(笑)。
 
栗田)ご自宅の庭でお弟子さんたちと芹沢先生の誕生日会をひらいたり、よく会食をされていたんですよね。民藝の方々も、皆で集まってはおいしいご飯とともに器や工芸について語り合ったりと、にぎやかな会食がお好きだったようです。
 
館長)栗田さんは知っていると思いますが、芹沢先生は相当な健啖家、簡単にいえば大食いだったんですよね(笑)。端正な顔立ちとスリムな体形のせいか、そういわれると「ええっ?」と思う人は多いと思いますが。お寿司が好きで、工房の人たちと食べにいくそうですが、若い人たちがとてもついていけないくらい食べるそうです。でもお店を出ると「うな重を食べたいな。」といってうな重を食べ、さらに大好きな豆大福をほおばるという(笑)。芹沢恵子さんにうかがったお話では、日本平ホテルに宿泊した際のディナーで「お肉のコースとお魚のコースとどちらになさいますか?」と聞かれて「両方。」と答えたそうです。そういう方もあまりいらっしゃらないかもしれないですね(笑)。まあ考えてみると、芹沢先生は、大変な量の仕事をされていたわけですよね。染色家としても、デザイナーとしても、収集家としても。その上、民藝協会や工房や、大世帯の染色団体の指導者でもあったわけで、それを思うだけで、大変なカロリーが必要だったのではないかと思うんですよ。食べた分を全部仕事で出してしまったのかなと(笑)。もともと健康で、食べるのが好きだから、それだけの量の仕事ができたともいえるかも(笑)。
 とにかく、芹沢先生と食とは切り離せないので、今回はちょっと作品から離れてその話題を…。
 
栗田)あのスリムな印象からは想像できないほど大食漢だったのですね(笑)。芹沢先生は豆大福が大好きだから、毎回お土産に持っていったんだよと言う方がいらっしゃいました。芹沢先生と食、とっても気になります。
 
館長)静岡市出身の芹沢先生。30代にはわさびが好きだったという話があります。静岡市葵区三番町に住んでいた時代、朝昼晩と三食、わさびを食べていたと岡村吉右衛門さんが回想しています。茎や根を酒粕に漬けた「わさび漬」もお好きだったようですが、これは先生の嗜好としてわかる気がする…。わさび漬は、静岡で考案され、明治20年代に全国区の名産品になったわけですが、明治28年生まれの芹沢先生にとっては、何か幼年時代の記憶と結びつく味わいだったのかもしれませんね。
 
わさびを模様にしたものとしては、1961(昭和36)年に静岡県観光協会から依頼されて制作した型染ポスター「観光の静岡県」があります。静岡県の特産品が、画面に散らされているんですが、その中にわさびがあります。その他には、桜えび、うなぎ、ピアノ、下駄といった静岡の特産品も(笑)。
 
栗田)三食わさびとは、静岡人ですね。ちなみに館長はお好きですか?
 
館長)私ですか。私もわさび漬けは大好きですよ、主食でもいいくらい(笑)。実は実家は農家で、わさびを作っていたんですよ。椎茸も作っていましたが、そういう生な味のおいしさというのは忘れられないですよ。椎茸だって、傘の開いた直径20cmくらいの大きなのをとってきて網にかけて焼き、上から醤油をかけたのが最高においしかったなあ…。
 
それから芹沢恵子さんに「芹沢先生が好きだった静岡のものって何だったでしょう」とうかがったところ、東海軒の「鯛めし」を挙げてくださいました。「静岡にいったらあれを買ってきてくれないか」とよく言われたそうです。よほどお好きだったんでしょうね。「鯛めし」は、白身魚のオボロを桜飯(醤油の炊き込みご飯)にのっけたものですが、おかずがたくあんだけの、シンプルなものがお好みだったそうです。ほんのり甘い、ほぐした魚の白身。私も大好き。今でも静岡駅の駅弁の人気商品ですし、静岡の方もファンが多いのではないでしょうか。その販売開始はなんと1897(明治30)年。芹沢先生は2歳(笑)。これもなつかしい故郷の味だったのかもしれませんね。芹沢家では、鯛は、年末に家族に一匹ずつ出されたといいますし、にぎやかなお誕生会にも。そういうおめでたく楽しいイメージが、代表作「鯛泳ぐ文」にも反映しているのかも(笑)。
 
栗田)芹沢先生と館長は食の好みが合いますね(笑)。「鯛めし」、素朴で美味しいですよね。「鯛泳ぐ文」の名作の背景にはおめでたい、おいしいイメージが隠されていたのですね。
 
館長)丸子(まりこ)の「丁子屋」(ちょうじや)のとろろも、「せきべや」の安倍川餅も大好物だったそうですよ。どちらも古くからある、静岡を代表する食。芹沢先生には、静岡が染み込んでいたんだなあと思います。
あと、お茶は、本山茶とか川根茶とか、特に銘柄にこだわりはなかったとのこと。ただ、熱くなければいけなかったそうです(笑)。ぬるいお茶はだめで、とにかく「熱くしてくれ、熱くしてくれ」とおっしゃったのだそうです。それを聞いて、私は何となくわかる気がしました。実家では代々お茶を作って来たんですが、ぬるいお湯でいれるという習慣がなかった。子どものころからキーンと熱いお茶ばかり飲むことが多かったですから。
 
栗田)うちのほうでは新茶は、渋みが出てしまうので少し温度が低い方がいいと言われますが。先生は猫舌ではなかったのですね(笑)。芹沢美術館近くの安倍川餅のお店「もちの家」の二階にも芹沢先生のお葉書やお茶券が飾られていますね。
 
館長)あと、食に関して面白いなと思ったのは、お弟子さんの山内武志さんに「おい山内、アンパンはどうやって食べるか知っているか。こうやって食べるんだ」といって、アンパンを手でギューッとつぶしてから食べたというお話。驚きましたね。「それはアンパンじゃなくて饅頭じゃないの…」って(笑)。まあ小学生の時、少しでも早く給食を食べて校庭で遊びたい時にやったなあ、とは思いましたが(笑)。でも、こればかりは、フカフカのほうがいいんじゃないのかなあ(笑)。札幌に「月寒(つきさむ)あんぱん」ってありますよね。月餅のような「あんぱん」で、これは私も大好物。まさか「月寒あんぱん」みたいなほうがおいしいということ?じゃないでしょうねぇ(笑)。もっとも、先生は1957(昭和32)年に札幌に行った折、月寒牧場も訪ねていて、牧場の柵に腰掛けている写真があるんですよ。去年、北海道の方に教えていただいたんですが…。それとも、つぶしたあんぱんを例えに、何か大切なことを伝えたかったのでしょうか。「制作は凝縮だ!」とか(笑)。それは冗談ですが。
 
 栗田)民藝の方々はお酒はあまり飲まない、甘党の方が多いですよね。柳宗悦先生はご飯にお砂糖をかけたり、チョコレートをおかずにしてご飯を食べたりしていたとか。濱田庄司先生は益子名物の赤羽まんぢうを毎日100個注文していて来客に振る舞って自らもよく食べたそうです。でもアンパンをつぶして食べるこだわりはおもしろいですね。
 
 館長)そうそう、柳先生は静岡市駿河区大谷(おおや)の鈴木家に寄寓して、『民と美』、『妙好人因幡の源左』、『物偈』、『南無阿弥陀仏』などの代表作の原稿を描かれているんですよ。私の調査ではのべ7ヶ月も静岡に滞在していますが、その間、豆ごはんとか生しらす、石垣いちごなどを堪能されていたようですよ。健脚だったから、久能山東照宮にもしばしば参拝されていますしね。「大谷に移住する」と言い出したこともあったくらい気に入っていたそうです。
さて、芹沢先生ですが、最晩年、芹沢美術館の開館時、美術館のD室でテレビのインタビューを受けている映像が残っているんですよ。その中で、味覚に触れています。「ただね、味だけですよ。僕が分んないのは。味(笑)。料理ですよ。…【中略】… それは静岡がそういうね、料理っていうかそういうものの材料に恵まれていたからね、料理なんかより直(じか)に食っちゃって済んでたんじゃないかと思うんですよ(笑)。」と冗談半分に話しています。静岡時代、新鮮な素材そのものの味に親しんでいたから、複雑な料理の味はわからない、という意味でしょうね。面白いコメントだと思いました。
 
栗田)そうですね。私も静岡に来て新鮮な野菜を食べることが多くなりましたが、とうもろこしとか、ゆでたてをかぶりつくのが一番美味しいですよね。芹沢先生の食のお話を聞いて、親近感がわいてきました(笑)。
 
○参考 『芹沢銈介の静岡時代』

  10、型染カレンダーはこちら!



Top